『会社を守る就業規則』


『会社を守る就業規則』




2007年の「消えた年金」問題の際、政府の設置した第三者機関の構成員になったことで有名になった社会保険労務士。しかし社会保険労務士が請け負うのは年金問題だけではありません。今回は『会社を守る就業規則』と題して、社会保険労務士法人あすらの代表社会保険労務士・栗原恵子さんにお話を伺いました。




会社と労働者のトラブルを解決する社会保険労務士



-まず、社会保険労務士とはどのような仕事をするのでしょうか?


社会保険労務士は同じ士(さむらい)業の弁護士や税理士と違って知名度が低かったのですが、2年前の2007年に「消えた年金」問題が浮上し、その調査のための第三者機関に社会保険労務士が入ったことで有名になりました。社会保険労務士は年金のプロと言えますが、もともとは会社と労働者の間を取り持つプロでもあります。労働基準法や労災、雇用保険にまつわるトラブルは、もちろん弁護士の方でも対応できますが、弁護士事務所はちょっと敷居が高いな、と思う時には社会保険労務士を頼っていただきたいですね。労務に関する問題ですと、弁護士の方より社会保険労務士の方が詳しい場合もあります。


就業規則は会社と労働者両方の為にある


-就業規則とは具体的にどんなものなのでしょうか?

スポーツにルールがあり、学校には校則があるように、会社が多種多様な人々で構成される以上、規則が必要になってきます。会社が業務上の目標を達成するために、労働者は労働を提供し、会社はその報酬として賃金を支払います。その過程で全ての人たちが同じ方向を向いて仕事をするために就業規則を定めるのです。具体的には、労働条件や賃金に関する取り決めがあります。朝何時に出勤して何時に退勤するのか、いくらの賃金がどのようにして支払われるのか、さらに終業時の服装なども就業規則によって決められています。


-では就業規則とは会社が労働者を規律するものなのでしょうか?

もちろんその目的はあります。しかし、就業規則は労働者を守るものでもあるのです。例えば女性の社員が結婚して出産し、育児をする場面では、出産休業や育児休業の取り決めがなければ女性は安心して働くことができません。また要介護の親を持った社員が施設ではなく自宅で介護をしたい、と思った時にも会社は対応できなければなりません。就業規則は、会社が労働者に対して「これを守ってください」と規律するためだけのものではなく、労働者の権利を守るものでもあるのです。


-就業規則は必ず作らなければならないのでしょうか?

就業規則を作成して労働基準監督署に届け出なくてはいけないのは、従業員 が常時10人以上の会社です。この従業員には正社員だけでなく、パートやアルバイトなどを含みます。常時10人ですので、繁盛期に一時的に従業員が増えて10人以上になった、という場合は届け出の必要はありません。しかし、従業員が10人未満だからと言って就業規則を作成しないのも考え物です。労働基準監督署に届け出る必要はありませんが、就業規則を制定することによって従業員が就業する際にメリハリをつけることができますし、もっと重要なのは労働基準監督署から是正勧告や労務監査が入った場合です。例えば過労死やうつ病で労働者災害が認められた場合、労働基準監督署が労働環境の是正勧告を行う場合があります。また税務監査と同様、会社が従業員に対して職場の安全を配慮しているかどうかを調査するため、会社に労務監査が入ることがあります。そうした時に監督官は必ず就業規則を見せるように求めてきますので、就業規則がないことは非常にマイナスに映ります。



会社を守る就業規則



-実際に発生した労務上のトラブルはどんなものがありますか?

kurihara02_s例えば、退職後に社員が残業代の未払いを労働基準監督署に訴える事例があります。 先日も、元横綱の若乃花が経営する飲食店の未払い賃金がニュースになりました。報道では、未払い賃金となっていますが、実際には残業代の未払いでした。就業規則に定めている残業の定義に従って、会社は従業員に残業代(割増賃金といいます)を支払う義務があります。定義が曖昧だったりすると、トラブルになるケースが多いようです。 裁判などになり、未払いが認定されると、付加金もつき、会社は莫大な残業代を払うことにもなりかねません。 また最近では職場にインターネット環境が整っているため、会社はメールのモニタリングやサイトのフィルタリングを行い社員の私的な利用を規制していることが多くみられますが、その旨就業規則に書いていなければ、プライバシーの問題とあいまって、トラブルの元になります。就業規則では、会社が社員に求めることを提示することが出来ます。つまり、会社と社員、双方の義務と権利を明文化したものが就業規則と言えます。


-そうして細かい規定をしていくと、就業規則は膨大な量になりませんか?

そうですね。きちんと決めていくと膨大な量になりますので、そこまでしている会社は多くはありません。しかし、きちんとした就業規則は会社を守ることに繋がります。例えば、実際始業したのは9時なのに、従業員が8時半にタイムカードの打刻をしてしまえば、会社は9時までの30分間の賃金を支払わなくてはなりません。このような無駄な支出も、就業規則によって「タイムカードの打刻は実際に始業した時間」と規定することで防ぐことができるのです。


-ほとんどの企業は就業規則に十分な注意を払っていないように思いますが?

就業規則を個々の従業員に配らなくてはならないという規定はありません。全ての従業員が見られるところに置きなさい、という決まりがあるだけです。内定の前に従業員に知らせる義務もないので、トラブルがあった時に初めて就業規則を持ってくる、という事例がほとんどなのではないでしょうか。ですから就業規則を更新しないという会社は多いと思います。我々社会保険労務士は少なくとも 法改正の度に更新し、会社の状況の変化に合わせた改訂をお薦めしていますが、中には10年に一回するかしないか、という会社もあります。


-就業規則を更新しないとどのような問題が起こるのでしょうか?

一番怖いのは、先程申し上げたように残業代を不当に過大請求されることです。また労働に関する法律は、改正が頻繁にあります。例えば育児や介護に関する改正もそうですし、来年4月には労働 時間に関する条項が改正されて、残業代の割増率が増えたり、一部を休暇として付与することが出来るようになります。さらに、有給休暇も1日単位ではなく時間単位で取得できるようになります。このような改正は、労働者に知らせなくては意味がありません。


-経営者の方々にアドバイスをお願いします。

多くの会社は法律が改正されることにすら気づいていません。上で挙げたような問題が起こって初めて社会保険労務士に相談するケースがほとんどです。しかし、就業規則は会社のリスク管理の観点からも、社員の権利義務の明確化の観点からも、会社にとって不可欠なものです。会社も社員も、問題が起こってからではなく、日常的に就業規則を確認し理解するようにすることをお薦めします。



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